ベリーAの畑を返すことになりました

山中史郎さま

ぼくの番なのに、ずいぶんあいてしまいました。1ヶ月半。
しかもあまりいい話じゃないのです。

ぼくたちは今年2月にワイナリーを作ろうと思い立って、幸運にも、春から仁井山地区にある貴重なベリーAの畑を借りることができました。
しかし、残念ながら、持ち主に畑を返すことになりました。

持ち主に「返してほしい」と言われたのです。

まったくの力不足でした。
力とはベリーAを育てる努力のことです。

春に借りる時、
「もうここのぶどうは作らない。あとはほっとくだけだから、好きなようにすればいい。」
そういってもらって借りました。

ほっとくだけ、というのは、その通り、春までには剪定して切り落とすべき枝も、すべて残っていました。ぼくたちはまず急いで剪定からするほかないところから始まりました。何より木は生きているから。

ほっとくだけ、というのは、他にも、本来昨年秋の収穫前には取り除くべきビニールが、ぼくらが借りた今年の春にもまだかかっていました。もちろん、春一番とか、それ以前の冬の強い風の日とかに絶えきれず、ぼろぼろに破れていましたが。剪定の後は、ぼくらは方々に散らばったビニールを拾ったり、丸めたりしました。

台風並みの力が加わらないと、ビニールは破れません。だからそれを支える番線などもことごとく切れて、ビニールを張るトンネルメッシュが支えられない状態でした。

ぼくらは、素人なりに、ずいぶん、ぶどうの棚というのを観察しましたね。そうして結論を得ました。
「ぶどう棚は、最も隅の柱の番線が命。」
まず、畑の隅に、鉄杭を打ち込みました。あれはキツかった。でも、やりました。

それから少しずつトンネルメッシュを支える番線を張りました。初めて使う番線張りの道具、あれ、ハルーとか、張線器というらしい。途方に暮れる作業でした。ねじ式の杭、あれはよい商品でしたね。

しかしながら、結局一枚もトンネルメッシュを支え直すことはできませんでした。

そして、ぼくらにはビニールを張る時間がもうなくなりました。
それでも「ビニールを張れない」ではなく「ビニールを張らない」ことにしました。

農薬を使う時間もなくなりました。
それでも「農薬をまけない」ではなく「農薬をまかない」ことにしました。

そうこうしているうちに、ぶどうの木から芽が出て枝が伸びていきました。
しかし、まともにのびたのは、半数ほどでした。

ほっとくだけ、というのは、それは昨年からもうはじまっていたことなのでしょう。
まったく芽のでない(=枯れてしまった)木が1割ほどありました。
また、さらに1割ほどは弱々しい枝が途中まで伸びましたがそれっきりになりました。
そして、あと2割ほどは花がほとんど咲きませんでした。
加えて、1割ほどはやはり弱いので、花を摘んで実がならないようにしました。

雨が降りしきる梅雨空のもと、ただ眺めるしかない、むなしい時間でした。
このブログにも写真が残っていますね。きれいな葉っぱがまぶしいです。

しかし今はほとんど葉っぱがありません。
紅葉の季節を待たず、枯れて落ちてしまいました。

さて、こういうぼくらの醜態を地域のいずれかの農家の方が見ていたそうです。
そして、ぼくらではなく、畑の持ち主が、その方にずいぶん言われたそうです。

「あんなことして、ぶどうができるわけがない!」

よその畑のことをいうのは「いらん世話」ですが、まあ、その通りなんです。できませんでした。

畑の持ち主にはずいぶん嫌な思いをさせてしまいました。
ぼくたちはできるかぎりのことをしましたが、それでも足りなかったのです。
できることなら借りた畑で見返したかったですが、持ち主の心の傷は、今、痛んでいるのです。
痛みを感じるなら、それは本来はぼくらだけでいいでしょ?
ぼくらがすべきことは、その畑を今買うということ。
しかし、ぼくらができることは、この手を離すことしかない。
ただただ、畑の持ち主には申し訳ない気持ちていっぱいです。

畑を貸してもらったことで勉強になりました。
ぶどうのこともよくわかりましたが、それ以上に…。

ま、もういいでしょう。
はっきりいって理不尽な話ですが、それがこの「ぶどうの里青野」の現実=ぼくらの現実です。
いつかぼくらがよいぶどうを作り、よいワインを作り、よいワインのお祭りを作らないと、この現実は越えられない。

史郎は前のエントリーで、

「『このぶどう畑おかしいよ!』って言える時代」

と書きましたが、当然ぼくら以外ももちろんそういえる時代ということなのですね。この度、奇しくもぼくら以外によって証明されてしまいました。これ、受け入れざるを得ないよね。

『ぶどうという果物は、ここで作られるべきものなのか』

おかげでぼくはより強い決意を得ました。
史郎、ぼくは地域のより内部に入り込むという方法で、ぼくらの進むべき道を探すことを試みます。
どうか、命綱をしっかり持っていてください。ほんとうに、たよりにしていますからね。

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