下水処理とワイン作り


山中史郎君

こないだ焼肉の時に電話したKさんのお宅におじゃまして、
改めてワイナリー計画話をしてきました。

Kさんは釣り好きで、下水処理施設に勤務しています。

釣りはもっぱら山陰(日本海側)に行くとのこと。
瀬戸内は、特に沿岸部は(山陰に比べて)魚がまずいからあまり行かない、
まずいのは、海が汚れているから、といいます。

下水処理に関する国家資格を持つKさんは、
随所に書き込みされている分厚い専門書をもちだして、
汚れた水をきれいにする方法について話してくれました。

そもそも、なぜ海が汚れるのか。
彼は家庭排水や浄化槽に、本来含まれるべきでない物質が
含まれているからだといいます。

それはなんとなくわかるけど、
しかし、驚いたのは次の説明です。

「下水処理というのは基本的に空気以外は何も足さないで、
汚水そのものが持っている能力で浄化が可能なんだよ。」

もちろん、特別な物質をくわえて特別な処理をするというのは、
技術としてはあるし実際にそれが使われることはあるが、
それは、何か自然でないものが含まれる時に用いられる。
変な言い方だけど「汚水が汚されている」ことがなければ、
何も特別なものは足す必要はないということ。

工程を要約すると。。。

下水処理場に濁った水が入ってきます。
家庭の便所から汲み取った人間のうんちも含まれます。
その濁った水に空気を送り込み撹拌します。
するとうんち等に含まれていた微生物が元気になって、
まわりの有機物をどんどん食べていきます。
すると今度は微生物がうんちをします。
この微生物のうんちは活性炭と同じような働きをして、
水中の濁りの元をさらに吸着していきます。
するとそれらは重くなってどんどん沈んでいきます。
ついには澄んだ水と汚泥にきれいに分かれます。
下水処理は完了、上澄み水は川に流されます。

さて、処理の工程で2つ重要なことがある、と彼は加えます。

1つは温度。適度な温度がなければ微生物も元気にならない。
なので年中通して一定量の処理を行うには、
特に寒い時期には加温の設備が必要。
ちなみに、微生物が有機物を分解するときメタンガスを出すので、
それを集めて加温の燃料として利用するとのこと。

そしてもう1つ。
通常は、沈殿した汚泥は一番いい状態、
しっかり底にたまった状態で次の工程に移される。
けど、実は処理をしないでそのまま放っておくと、
さらに分解が進み、逆に軽くなってふたたび水中が濁り始める。
だから、ただ放っておくのではなく、
分離したタイミング、ちょうどたまっているその期間に、
上澄みと汚泥を分けなければダメなのだと。

なるほど、と聞いてたら、
実は、ここまでは伏線だった。

Kさん曰く、

「ワインはいかに澄んでいるかが1つの価値基準になるけど、
その工程は下水処理と全く同じだ」

面白いでしょ?

ぶどうジュースに限らず、果物・野菜のジュースって透き通ってないでしょ?
これが微生物の働きでアルコール発酵していく過程で、
その濁りが底にたまって「おり」になる。
その上澄みがワインなんだと。

さらに彼は「何も足さない、何も引かない。だから答えは1つ。」ともいいます。
つまり、ぶどうを栽培、収穫し、つぶして、発酵させ、
最後にはワインにするというすべてのプロセスにおいて、
ぶどうそれ自体の糖度、ぶどうそれ自体についている微生物、
収穫、加工しているときのその季節の温度でもって、
とにかく澄んだワインを作るということだけを目指せば、
「ワインは年に1つの答え」になると。

実はこれ、ぼくが、
「ワイナリー計画に出資してくれる人がいるとして、
その人が甘口のワインが飲みたいといったら、
そういうワインを作るべきか」
と、Kさんに問うて返ってきた答えです。

Kさんの話は、ぼくらのワイナリー作りに、
何かひとつ筋を通す、そのヒントになると思う。

「青野にワインが年に1つ到来する」

このできごとを地域で迎え入れる、そんな文化が生まれるといいなあ。
世界中のぶどうの産地にとっては、
文化の基礎の基礎なのかもしれないけれど。

「自然とともに生きる」ってよく言われるけど、
下水処理とワイン作りを積極的に結びつける、
そういう思考法、生き方によってこそ、それは実現する。
実践すれば、少しは瀬戸内海もきれいになって、
再び世界でも有数の漁場に復活し、
Kさんも近場で釣りが出来るようになる、かな。

ともあれ、史郎くんとKさんを会わせるのが楽しみです。

PS.
冒頭の写真は「井原浄化センター」。
Kさんは、実は画家でもあります。このネタはまた別の機会に。
彼の所属する絵画グループのHP

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